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TOPICS2023/01/15
中小企業の月60時間超の時間外割増の注意点
法改正のコーナーでも触れましたが、2023年4月から、中小企業でも月60時間を超える時間外労働に対し、50%以上の割増率で時間外手当を支給することになります。2010年の労働基準法改正で新設された制度で、当初は大企業のみ適用されていましたが、2023年4月からは企業規模に関わらずすべての企業が適用になります。制度の概要を改めて振り返ってみましょう。
時間外労働
まず時間外労働には「法定内」時間外労働と「法定外」時間外労働の2種類があります。1日の所定労働時間が7時間の会社を例にします。9時から19時まで勤務し、休憩時間を除いて9時間の時間外労働が発生した場合、17時~18時の1時間は「法定内」、18時から19時の1時間は「法定外」の時間外労働になります。労働基準法で定める1日8時間(または週40時間)を超える時間外労働が「法定外」労働時間です。今回の割増率50%の対象になるのは「法定外」時間外労働です。
休日労働
休日にも「法定休日」と「法定外休日」の2種類があります。法定休日は原則として週1日の休日です(労基法35条)。例えば日曜日を法定休日と定めた場合、土曜日や祝日は「法定外休日」になります。法定休日に労働した場合は35%の割増賃金になりますが、法定外休日の労働は「法定外時間労働」になるため、週40時間を超える場合は25%の割増になります。そして今回の50%超割増の対象にもなります。
月60時間の算出方法
1日8時間を超える(法定外)時間外労働時間と法定外休日の週40時間を超える(法定外)時間外労働時間を合算して60時間を超えると、超過した時間外労働に50%以上の割増賃金を支払うことになります。具体的な算出方法は以下のようになります。
(厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」より引用)
このような計算に加えて、時間外労働が深夜業だった場合にはさらに25%の割増がつきます。60時間超で深夜業だと75%の割増ということになります。
代替休暇
労働者の健康確保のため、60時間超の割増賃金を支払う代わりに代替休暇を付与することもできます(※休日出勤の代休とは異なるのでご注意ください)。取得できる代替休暇の時間は「(時間外労働時間-60時間)×換算率」で計算することになっており、換算率は「60時間超の割増賃金率(50%以上)-通常の割増賃金率(25%以上)」です。法定通りの割増率の会社なら25%になります。文字にすると分かりにくいので具体例で考えましょう。月の時間外労働が76時間だったときに取得できる代替休暇時間は、以下のようになります。
(76時間-60時間)×0.25=4時間
あくまで60時間超の割増賃金(25%~50%部分)の代替休暇制度なので、通常の25%の割増賃金は支給しなければなりません。そして導入には就業規則の記載に加えて労使協定を締結する必要があります。労使協定では以下のことを定めます。
・代替休暇の取得単位は半日または1日単位とすること(どちらかでも可)
・取得方法(いつまでに取得申し出するか)
・取得期間は60時間超の時間外労働を行った月の末日の翌日から2か月以内とすること
・取得しなかった場合は精算して割増賃金を支給すること
この代替休暇制度は運用が複雑なため、大企業でも導入率は30%前後です。代替休暇を付与するか、割増賃金を支給するか、早めに検討しておくことをお勧めします。この割増率に関する法改正はあくまで長時間労働を抑制し、労働者の健康を守ることにあります。代替休暇を付与すれば、法定休日に労働させれば、ということはせず、労使間で働き方を見直すきっかけにしましょう。
参考:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf