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TOPICS2023/02/24
定期昇給とベースアップについて
4月の賃上げに関するニュースが増えてきました。政府から物価上昇率を超える賃上げが経済界に要求されていることあり、注目度の高さが窺えます。報道を見ていると定期昇給とベースアップが区別されずに扱われていることもあるので、すでにご存知の方も多いと思いますが、それぞれの違いと会社の人件費負担について考えてみたいと思います。

定期昇給
定期昇給は毎年一定の時期に給与が上がる仕組みです。年1回(4月)、年齢や勤続年数、評価などを加味して行われるのが一般的でしょう。2000年以降の定期昇給による賃金改定率はおおむね2%弱でした。
定期昇給は、ひとりひとりの従業員側から見ると毎年給与が上がっていますが、会社全体の人件費は(年齢構成が一定であれば)上昇しません。給与がいちばん高い従業員が定年退職し、いちばん低い新入社員が入ってくることで、全体の昇給額が相殺されるのです。
実際に計算してみましょう。A社には20歳から60歳まで各年齢に1人社員がいます。20歳新入社員の給与は20万円、定期昇給額は一律5,000円です。A社の給与総額は1,160万円/月です。
年齢 | 20歳 | 21歳 | 22歳 | ~ | 58歳 | 59歳 | 60歳 |
給与 | 200,000円 | 205,000円 | 210,000円 | ~ | 390,000円 | 395,000円 | 400,000円 |
4月に40人の従業員全員が5,000円昇給しますが、60歳の社員が定年退職し、20歳の新入社員が入ります。昇給後の給与総額の計算は以下になります。
昇給前総額1,160万円+昇給20万円(40人×5,000円)-退職40万円+新人20万円=1,160万円
このように、年齢構成が一定であれば定期昇給で人件費は上がらず、会社の負担は実は増えないのです。従業員の立場からすると、定期昇給は実質的な賃上げとは言えないのです。
ベースアップ
ベースアップは賃金水準の底上げです。勤続年数や評価に関わらず、全社員一律で引き揚げます。会社業績が好調のときやインフレで物価上昇時に行われることが多いです。2000年以降ベースアップはほとんど行われていません。2015年頃に政府要請により一部でベースアップが実施されましたが、多くの会社ではずっと0%でした。
上記A社で1%のベースアップが行われると、各人の給与は以下のようになります。
従前 | 200,000円 | 205,000円 | 210,000円 | ~ | 390,000円 | 395,000円 | 400,000円 |
1%UP | 202,000円 | 207,050円 | 212,100円 | ~ | 393,900円 | 398,950円 | 404,000円 |
1ヵ月あたりの給与総額は1160万円 → 1171万円に上昇します。ベースアップを行うと翌年以降も上昇した給与が基準になりますので、会社としては恒久的な人件費増になります。従業員からするとベースアップが実質的な賃上げになるのですが、会社はベースアップの実施には慎重になります。
2023年の賃上げ
2月20日発表の東京商工リサーチのアンケートによると、2023年の賃上げ実施企業は大企業・中小企業ともに80%を超えています(Q.1)。賃上げの内容としてベースアップを実施するのは、大企業で55.9%、中小企業で49.2%でした(Q.3)。連合(日本労働組合総連合会)は2023年春闘の目標として、定昇2%と物価上昇を踏まえたベースアップ3%を合わせて5%の賃上げを掲げています。上記アンケートでは3割弱の企業で5%を超える賃上げが予定されています。
前述のA社で5%の賃上げ(3%のベースアップ)を実施すると、会社の人件費は36万円/月、年間で432万円の増加になります。賞与も考慮するとけっこうインパクトのある数字になりそうですね。
一方でコスト上昇分を価格転嫁しにくいため賃上げを見送る企業も2割弱あり、明暗が分かれました。
初任給の上昇、既存社員の転職防止のためにも給与水準を上げたいところですが、原材料費やエネルギー価格の上昇もあり、バランスを取るのが難しい局面になっています。