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TOPICS2023/11/05
年収106万・130万の壁とキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
年収によって税金や社会保険の適用が変わる、いわゆる「年収の壁」と呼ばれるものがあります。以前は所得税の配偶者控除が受けられる上限として「103万円の壁」が知られていましたが、今回は社会保険の適用に関する「106万・130万の壁」と、収入の壁を超えた場合に受けられる助成金についてお伝えします。

年収106万・130万の壁とは?
もともと社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関する収入の壁は130万円でした。パートタイム等で年収130万円以上の見込みがあると、配偶者の社会保険の扶養から外れ、勤務先の社会保険に入るか、国民健保・国民年金に加入することになります。保険料の自己負担が発生して手取り収入が減少するため、この金額を超えないように就業時間を抑制する傾向がありました(保険料の自己負担増に加えて、配偶者の会社から支給される配偶者手当が減額されるケースもある)。
2016年10月から始まった社会保険の適用拡大により、年収130万円未満のパート労働者でも会社の社会保険に入ることになりました。2023年時点では従業員数(正確には厚生年金の被保険者数)101人以上の企業で、以下の条件すべてに該当するパート労働者は会社で社会保険の加入対象になります。
①週の所定労働時間が20時間以上(※1)
②所定内賃金が月額8.8万円以上(※2)
③2ヵ月を超える雇用の見込みがある
④学生ではない(※3)
※1 雇用契約上20時間未満でも、実労働時間が2ヵ月連続で週20時間以上となり、
その後も続く見込みの場合は3ヵ月目から保険加入
※2 賞与、時間外手当、最低賃金に算入されない賃金(通勤手当、精勤手当、家族手当等)は除く
※3 休学中、夜間学生は対象
賃金月額8.8万円を年額にすると約106万円(8.8万円×12)になり、これを超えると社会保険料の自己負担が発生するため「106万円の壁」と呼ばれるようになりました。現時点では101人以上の企業が対象ですので、100人以下の企業には106万円の壁はなく、これまでどおり130万円が社保適用の基準になります。2024年10月にはこの適用対象が51人以上の企業となりますので、対象予定の企業は対応をご検討ください。
年収106万円と手取り収入のイメージ(厚生労働省「年収の壁への当面の対応策」より引用)
年収の壁・支援強化パッケージの概要
年収の壁を意識せずに働く時間を延ばすことができる環境づくりを後押しするため、当面の対応策として「年収の壁・支援強化パッケージ」が9月27日に発表されました。2023年10月から実施され、年金制度改正が予定される2025年度末までの時限措置になります。主な内容は以下のとおりです。
≪106万円の壁への対応≫
①キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を新設する
②保険料負担軽減のために支給する手当(社会保険適用促進手当)は保険料算定から除外する
≪130万円の壁への対応≫
一時的な収入増で130万円を超えても、事業主の証明で連続2回を上限に被扶養者認定を可能にする
≪配偶者手当への対応≫
配偶者手当の見直しが進むよう、見直し手順をフローチャート等の資料を作成し、周知する
106万円の壁への対応
①キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を新設
パート労働者が新たに社会保険の適用を受ける際に、収入を増加させる取組を行った事業主に対し、最大3年間で労働者1人当たり最大50万円が助成金として支給されます。新設される「社会保険適用時処遇改善コース」には対象となる取組ごとに(1)賃上げ=手当等支給メニュー(2)所定労働時間の延長=労働時間延長メニュー(3)併用メニューがあります。各メニューの内容は以下の表をご参照ください。社会保険適用促進手当を支給する場合も賃上げの取組として助成対象になります。条件を満たせば従業員100人以下の企業で年収130万円の壁を超えた従業員も助成金の対象になります。
支給申請にあたっては、まず「キャリアアップ計画書」を労働局に提出します。その際、対象労働者と面談を行うことや、取り組むメニューの選択や処遇等について労働者代表の意見聴取を行う必要がありますので、労使間で話し合いながら進めましょう。新たに社会保険が適用される従業員が助成金の対象のため、すでに社会保険に加入している従業員は対象にならず、待遇や手当に差が出ると従業員から不公平に感じられる可能性もあります。待遇改善にあたっては、慎重に内容を検討しましょう。
このコースでは申請人数の上限撤廃、提出書類の簡素化などの措置が取られます。現行のキャリアアップ助成金にある「短時間労働者労働時間延長コース」にも時間延長に対する助成がありましたが、こちらのコースは2023年度末までの措置となるようです。
②社会保険適用促進手当は保険料算定から除外する
新たに社会保険が適用されることになったパート労働者に対し、保険料の負担軽減のため「社会保険適用促進手当」を支給することができます。この手当は給与、賞与とは別に支給するものとし、保険料負担の軽減のため、社会保険料の算定から除外されます。この負担軽減措置は2年間限定(2023・2024年度)になります。あくまで社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の算定対象外とする措置であり、労働保険(労災保険・雇用保険)や所得税、住民税は対象となります。平均賃金や割増賃金の計算基礎にも算入されますので、給与計算では注意が必要です。
社会保険適用促進手当を支給する場合は就業規則の変更が必要になります。変更した就業規則に労働者過半数代表の意見書を添付して労働基準監督署に提出します。保険料の負担軽減措置は2年間で終了ですが、手当はその後も継続して支給することになります。2年後に手当を廃止するのは不利益変更となりますのでご留意ください。支給対象者は標準報酬月額10.4万円以下の者で、支給上限額は以下のとおりとなっています。
標準報酬月額 | 上限額(年額) |
---|---|
8.8万円 | 15.9万円 |
9.8万円 | 17.7万円 |
10.4万円 | 18.8万円 |
130万円の壁への対応
事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
社会保険の扶養対象になるには年収130万円未満であることが要件とされています。人手不足による時間外労働の増加等で年収が130万円以上となっても、一時的な事情である旨の事業主証明を提出することで、被扶養者認定を取り消されないようになります。これまでも一時的な収入増で直ちに認定取り消しとはならない運用がされていましたが、事業主証明によって運用をさらに円滑化することが可能になります。あくまで「一時的な事情」として認定することから、同一の者について原則として連続2回までが上限になります。配偶者手当への対応
配偶者手当の見直しの促進
企業の配偶者手当の支給条件は「所得税の控除対象配偶者(103万円以下)」または「健康保険の被扶養者(130万円未満)」など、収入要件が設定されているケースが多くあります。そのためパート労働する配偶者は、その金額を超えないように就業調整が行われる傾向があります。
近年、大企業を中心に配偶者手当の見直しが行われてきましたが、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す 等わかりやすい資料を作成・公表したり、セミナー等で周知することになりました。
配偶者手当を直ちに廃止するのは不利益変更になりますので、基本給に組み入れたり、子ども手当を創設するなどの対応が考えられます。どのような見直しが望ましいか、従業員のニーズを把握し、労使間で話し合って進めるのがよいでしょう。