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TOPICS2024/1/16

役員と社会保険① ~ 常勤役員・非常勤役員・使用人兼務役員~

 会社に雇用される従業員であれば、要件を満たせば社会保険の適用対象になります。では、役員も同様に社会保険の対象になるでしょうか?役員に適用される(広義の)社会保険について、①(狭義の)社会保険(健康保険・厚生年金保険)と②労働保険(労災保険・雇用保険)の2回に分けて解説していきます。

 

  役員の健康保険・厚生年金保険

 健康保険・厚生年金保険では、適用対象となる「被保険者」を次のように定めています。

  健康保険法
  第3条 この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。

  厚生年金保険法
  第9条 適用事業所に使用される70歳未満の者は、厚生年金被保険者とする。

 

 従業員は会社と雇用契約を締結して使用従属関係にありますが、役員と会社の契約は委任契約であり、出勤日数や労働時間の管理や指揮命令を受けません。そのため役員は上記法律の「使用される者」に該当しないように思われます。この点に関して行政通達(昭和28年7月28日 保発第74号)で、役員であっても法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者資格を取得するとしています。
 では、報酬を受けている役員はすべて健康保険・厚生年金保険の被保険者になるのでしょうか。これについて日本年金機構は疑義照会(平成26年1月8日 受付番号No.2010-77)で「その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつその報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払を受けるものであるかを基準として判断されたい。」として、以下の判断基準を示しています。

  ① 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
  ② 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
  ③ 当該法人の役員会等に出席しているかどうか
  ④ 当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
  ⑤ 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
  ⑥ 当該法人等より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか

 役員が社会保険の被保険者となるか、①~⑥の実態に基づいて総合的に判断します。
 常勤役員であれば被保険者となる可能性は高いでしょう。常勤役員の中には事業所にはあまり出勤せずに職務遂行する方もいます。①の基準は満たしませんが、それだけで社会保険の適用外になるものではありません。②~⑤も含めて判断することになります。また、起業後間もない時期などは代表取締役であっても報酬ゼロ、または低額な報酬ということもあります。そのようなケースでは報酬を受けていない、または低額で保険料を控除できないということで適用外となるでしょう。

 非常勤役員はどうでしょうか。非常勤役員について会社法等で明確には定義されていませんが、経営会議などで月数回出勤する社外取締役や非常勤監査役であれば、社会保険の適用外になる可能性が高いでしょう。非常勤であっても毎週何日か出勤する場合は、上記①~⑥の総合判断になります。
 ①の出勤について、いわゆる「社会保険の4分の3基準」(1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上であれば厚生年金保険・健康保険の被保険者になる)を適用するという意見を見かけます。この「社会保険の4分の3基準」はあくまで短時間労働者が社会保険の適用を受ける際の判断基準です。役員には適用されませんのでご留意ください。

  複数の会社で役員を兼務する場合には、それぞれの会社で社会保険の適用判断をします。その結果、2か所以上の会社で被保険者となる場合には 「二以上事業所勤務届」の提出が必要になります。それぞれの会社の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、保険料はそれぞれの会社で案分して納付します。報酬が変動したときの随時改定など手続きや給与計算が通常と異なる部分もありますので、該当する際は注意が必要です。


参考:厚生労働省「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き(二以上事業所勤務届)」

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.html