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TOPICS2024/4/16

役員と社会保険② ~ 常勤役員・非常勤役員・使用人兼務役員~

 会社に雇用される従業員であれば、要件を満たせば社会保険の適用対象になります。では、役員も同様に社会保険の対象になるでしょうか?役員に適用される(広義の)社会保険について、①(狭義の)社会保険(健康保険・厚生年金保険)と②労働保険(労災保険・雇用保険)の2回に分けて解説していきます。今回は②労働保険(労災保険・雇用保険)編です。

 

  役員の労災保険

 労働保険(労災保険・雇用保険)の適用対象は労働者(正社員、パート、アルバイトなど名称や雇用形態にかかわらず、労働に対して賃金が支払われる者)なので、原則的には役員には適用されません。しかし役員であっても(部分的に)労働者であると認められる場合は労働保険が適用されることがあります。

 労災保険では通達(昭和34年1月26日 基発第48号)で、業務執行権を有しない役員で、指揮命令を受けて労働に従事し、対償として賃金を受けている者については、原則として労働者として取り扱うとしています。業務内容が労働者と同様の部分があり、役員報酬とは別に賃金が支給されているなど、実態として労働者性が認められれば、労働者部分に対して労災保険の適用を受けることができます。常勤・非常勤に関わらず、労働者性の有無で判断されます。
 また、社長=事業主であっても、条件を満たす中小企業の事業主であれば労災保険に「特別加入」するという制度もあります。


参考:厚生労働省「労災保険への特別加入」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html


  役員の雇用保険

 雇用保険法は第4条で「この法律において「被保険者」とは、適用事業に雇用される労働者」であると定めています。労働者であるか否かを判断する具体例として「雇用保険に関する業務取扱要領」(20351(1)労働者性の判断を要する場合)で以下のように示しています。

 (イ) 株式会社の取締役は、原則として、被保険者としない。取締役であって同時に会社の部長、支店長、工場長等従業員としての身分を有する者は、報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り被保険者となる。(後略)
 (ロ) 代表取締役は被保険者とならない。
 (ハ) 監査役については、会社法上従業員との兼職禁止規定(会社法第335条第2項)があるので、被保険者とならない。ただし、名目的に監査役に就任しているに過ぎず、常態的に従業員として事業主との間に明確な雇用関係があると認められる場合はこの限りでない。
 (ニ) 合名会社、合資会社又は合同会社の社員は株式会社の取締役と同様に取り扱い、原則として被保険者とならない。
 (ホ) 有限会社の取締役は、株式会社の取締役と同様に取り扱い、会社を代表する取締役については、被保険者としない。


 代表取締役や監査役は雇用保険の被保険者にはならないが、取締役と従業員の双方の身分を持つ使用人兼務役員で、労働者性の強い者であれば被保険者として認められます。労働者性の強さは次の要件で判断されます。

 ①役員報酬よりも従業員としての賃金のほうが高い
 ②就業規則の適用を受けている
 ③出勤義務があり、勤務時間の拘束がある
 ④代表権、業務執行権がない
 ⑤法定帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)や雇用契約書を整備している


 上記要素で労働者性が強いと判断される場合には「兼務役員雇用実態証明書」をハローワークに提出し、雇用保険の被保険者となります。「兼務役員雇用実態証明書」には非常勤の場合の出勤日を記入する欄がありますが、非常勤役員が従業員を兼務するのは現実的には難しいと思います。また、もし仮に役員としての報酬がゼロであっても、雇用保険の適用を受けるには「兼務役員雇用実態証明書」の提出が必要です。手続き漏れがないよう注意しましょう。


参考:厚生労働省「兼務役員雇用実態証明書」
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-hellowork/content/contents/000572309.pdf


 雇用保険料の計算対象となるのは従業員としての賃金のみで、役員報酬は保険料の計算から除きます。育児・介護休業給付金や求職者給付の基本手当(失業保険)も受給できますが、従業員としての賃金を基準に支給金額が決まります。


  使用人兼務役員の労務管理

 役員は労働者ではないので労働基準法の適用がなく、会社の労務管理も行われません。しかし労働者としての部分を有する使用人兼務役員は、労働者部分は労働基準法の適用を受け、労務管理の対象になります。具体的には、年次有給休暇の付与、深夜割増賃金、定期健康診断、ストレスチェック、解雇予告手当など、一般従業員と同じように扱われる必要があります。