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TOPICS2025/10/24
有給休暇の買取は違法?認められるケースと実務上のポイント
退職時に未消化の年次有給休暇(以下「有給休暇」)が残っていたり、時効で消えてしまう有給休暇があると、 有給休暇を買い取って欲しいと従業員から相談されたことがある方も多いのではないでしょうか。当事務所でも「会社は買い取る義務があるのでしょうか?」と問い合わせを受けることがしばしばあります。そこで今回は、有給休暇の買取が可能なのか検討していきたいと思います。
有給休暇の法律上の規定
有給休暇は労働基準法第39条に規定されており、継続勤務した年数ごとに付与日数を定めています。
有給休暇制度の趣旨は「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するいう位置づけから、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度」とされています。
また、行政通達でも「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて労働基準法39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法39条の違反である」(昭和30年11月30日 基収第4718号)としています。
このようなことから有給休暇の買取は違法と解釈されており、従業員から買取の相談があっても会社は対応する義務はありません。
有給休暇の買取が認められるケース
有給休暇の買取は原則不可ですが、例外として認められる3つのケースがあります。
① 退職時に未消化の日数
退職時に消化しきれず残っている有給休暇は買取が可能です。退職とともに有給休暇を使用する
権利がなくなることから、退職時に買い取ることは違法にはなりません(聖心女子学院事件:
昭和29年3月19日神戸地裁判決)。
② 時効で消滅する日数
有給休暇の期限は、付与されてから2年間です(労基法第115条)。時効により消滅する有給休暇
については買い取ることが可能です。
③ 法定日数を超える部分の日数
労基法39条で定める日数を上回り、会社が独自に付与している有給休暇は買い取ることが可能です。
慶弔休暇や夏季休暇などの特別休暇も買取対象にすることができます。
買取の実務上のポイント
有休休暇を取得した日の賃金は、「平均賃金」「通常の賃金」「労使協定に基づく健康保険法上の標準報酬日額相当額」のいずれかで支払います(労基法第39条)。しかし有給休暇の買取は法律の定めがありませんので、例えば「1日あたり一律で〇〇円で買い取る」としても差し支えありません。しかし通常の有休休暇の賃金を下回ると従業員とのトラブルになる恐れがあるので、買取の賃金は慎重に検討した上で設定しましょう。
買い取り時の税務上の取扱いも注意が必要です。
①退職時に買取すると退職所得になります。
社会保険料の対象にはならず、分離課税として所得税・住民税を計算します。
②時効消滅、③法定日数超による買取は、給与所得で賞与になります。
社会保険の対象になるので「賞与支払届」を作成・提出します。所得税も賞与に対する税率を使用して計算します。
実務的には、買取の都度、上記の手続きを行うことは非効率的です。①の場合は退職金に上乗せ、②③の場合は賞与に上乗せして支給することが考えられます。買取時の賃金額とあわせて、支給方法・時期についても事前にルール化しておくといいでしょう。
そのほかの制度(積立休暇制度)
時効により消滅してしまう有給休暇を積み立てておく制度(積立休暇制度)というものがあります。この積立休暇は、長期の病気休業や育児・介護などで休業する際に有給で使用することができるという、企業独自の福利厚生制度になります。買取以外の選択肢として、検討してみてはいかがでしょうか。